給料明細を見て「残業したのに、思ったより少ない」と感じた経験のある人は少なくないでしょう。日本の時間外労働に関する法律は約40年間ほぼ同じ骨格を維持してきました。
しかし2026年、労働基準法の抜本的な見直しをめぐる議論が大きく動いています。残業代の計算方式から深夜労働の割増率、月60時間超の特別ルール、さらには副業・兼業時の取り扱いまで、複数の制度が整理されようとしています。
基本的な「25%・50%増し」のルールを押さえ、変更点が自分の手取りにどう関わるかを確認することが重要です。
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割増賃金の25%と50%の使い分け
現行の労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた時間外労働に対して、基本給の25%以上を割り増して支払うことが企業に義務づけられています。
午後10時から翌朝5時にかかる深夜労働には、別途25%の割増が加わります。定時後の通常残業と深夜残業が重なる場合、二つの割増が合算されて実質50%増しとなります。
この計算構造を正確に理解していない労働者が多く、本来受け取れる残業代が支払われていないケースは依然として報告されています。
月60時間超における50%の割増率
2023年4月から中小企業にも適用が拡大されたルールがあります。1か月の時間外労働が60時間を超えた部分については割増率が50%以上に引き上げられるのです。
それ以前は大企業のみに適用されていましたが、現在はすべての規模の企業に義務づけられています。
繁忙期に毎日2〜3時間の残業が続く場合、月60時間超に達することはそれほど珍しくありません。60時間に達した時点から計算方法が変わるため、残業時間の累計把握が重要です。
週44時間特例の廃止と中小企業への影響
2026年の法改正議論で中小企業経営者が特に注目しているのが、週44時間特例の廃止です。
現行法では小売業・飲食業・サービス業など従業員10名未満の特定事業場に限り、週44時間を法定労働時間とする特例が認められてきました。
改正案では、この特例をすべての業種・規模で廃止し、原則週40時間に統一する方向で検討が進んでいます。
小売・飲食業の年間人件費増加試算
社会保険労務士による試算では、従業員5名規模の小売業が週44時間特例を活用していた場合、廃止後には年間60万〜120万円程度の人件費増が生じる可能性があります。
ただし対象企業の8割以上はすでに週40時間で運用しているため、実際に影響を受ける事業場は限られるという見方もあります。
影響の大きさは業種・シフト体制・実際の残業実態によって異なるため、一律に影響額を見積もることはできません。
副業兼業における割増賃金計算の大転換
現行制度では、複数の会社で働く労働者の労働時間がすべて通算されます。本業で6時間、副業で3時間働けば合計9時間となり、8時間を超えた1時間分について割増賃金が支払われる仕組みです。
この「通算管理方式」は計算が複雑で、副業を許可する企業の大きな負担となってきました。
改正案では各社が自社の労働時間だけを独立して管理する「分離管理方式」への変更が検討されており、2027年4月施行が想定されています。
つながらない権利と残業代の新たな論点
改正議論で注目を集めるテーマが「つながらない権利」です。テレワークの普及に伴い、就業時間外に上司からチャットや電話で業務指示を受けるケースが一般化しています。
フランスは2016年、イタリアは2017年にすでに法制化しており、日本でも企業がガイドラインを策定する方向で議論が進んでいます。
時間外の業務連絡が実質的な「労働時間」に該当すると判断された場合、その分の残業代支払い義務が生じる可能性があります。
固定残業代制度の法的リスク
一部の企業では、実際の残業時間にかかわらず一定額を「固定残業代」として給与に組み込んでいます。
この制度自体は違法ではありませんが、固定残業代の金額が実際の残業時間分の割増賃金を下回る場合は、不足分の追加支払い義務が生じます。
2026年の法改正の流れの中で、こうした固定残業代制度の運用に対する行政のチェックも厳格化しつつあります。
給与明細に「みなし残業代」などの名目で一定額が含まれている場合、実際に何時間分として設定されているかを雇用契約書で確認することが望ましいです。
未払い残業代の請求権と時効
2020年の法改正により、未払い残業代を請求できる時効は従来の2年から3年に延長されています。
さらに将来的には5年への延長も議論されており、過去の未払い残業代をさかのぼって請求できる範囲が広がる方向にあります。
ただし時効の起算点や計算方法は状況によって異なるため、具体的な請求可能額は労働基準監督署や社会保険労務士への相談を通じて確認することが適切です。
